私の家は湖山池の畔に建っている。湖山池は周囲16 km、池と名の付く湖沼のうちで、日本最大の面積を誇る。かなりの広さを持ち、その周囲は山あり住宅地あり、魚も鳥も多く住み、夕暮れには赤紫の夕映えが、夜には町並みの灯火が湖面に映え、なかなかの景色である。
小学生の娘が、湖山池の体験会に参加した。漁船に乗せてもらい、池のあちこちの水の色、プランクトンの量、水温などを調べるものである。水温の調査によると、プラスマイナス1℃くらいの幅で場所や水深によってやや異なり、講師の先生は池が生きている証拠としてこのことを強調されたようだった。しかしながら、私も娘も、むしろ池の水温が場所や水深によらず、非常に均一なことに興味を持った。そこで小学校の夏休みの自由研究として、湖山池の定点での水温の経時変化、湖山池を含む湖山川水系の上流から下流までの場所による水温の変化、これらの変化がどのような意味を持つかを調べるための温度差の体感実験を行った。
もちろん、娘の研究には助言と温度計の購入、車で測定地点へつれてゆくなどの手助けをしたのみで、娘のレポートは小学生らしい素朴なものである。しかしせっかく興味深いデータが得られたので、ここに私がレポート形式に変換し、掲載する。
2日間にまたがり、高江町の沿岸で水面近くの水温を測定した。測定には市販の室内外測定用のデジタル温度計を用い、室外測定用の測定端を水中に投げ込み、読みが安定した後に記録した。測定日は夏の終わり、晴天ないし曇天であった。比較のため、気温も記録した。
ある1日を選び、湖山池に流入する河川のうち最大の長柄川の上流から下流、湖山池沿岸各地、湖山池から日本海に注ぐ湖山川、湖山川河口の500 m外にある賀露港で水温を測定した。測定時は夏の終わり、曇天、気温はおおむね30℃程度であった。測定方法は前項と同じで、上流部では藪をこいで沢の清水に近づくなど、なかなかの冒険であった。測定地点を図1に示す。
自動温度調節機能を持つ風呂に標準量の水を張り、39℃からおよそ1℃刻みで温度を上げ、実際の水温を測定するとともに中に入り、感想を記録した。
図2のように、気温は朝は低く、変化しながら上昇し、13時に最高となり、夕方には低下した。水温も朝から13時まで上昇し、やがて低下したが、その変化の幅は気温の変化の幅より小さく、2℃程度であった。翌日も水温はあまり変わらなかった。午前中には暖まった空気や日照によって水温は上昇するものの、熱容量が大きいので変化の幅が小さいものと考えられる。
図3のように、源流では約17℃であった川の水温が、数km流れ下るうちに数℃上昇した。しかしその水温は湖山池の水温と比べるとかなり低く、湖山池の水温は非常に高い27〜29℃で場所によらず一定であった。
日本海では湖山池より水温が低かった。これは、日本海の方が熱容量が大きく、夏の間の水温上昇が緩やかだったためと推測される。このことは冬期に測定してみれば確かめられるであろう。
湖山池から日本海に向けて流出する湖山川では、流れとともに水温が緩やかに低下し、日本海の温度に近づいた。このとき気温は約30℃と水温より高かったことから、湖山川の水は空気によって冷やされたわけではない。このことから、日本海の水が逆流し、混合することによって湖山池から日本海にかけて緩やかに温度が低下するものと推測される。このことは流れや成分の測定によって裏付けられるであろう。
風呂の温度を変え、入ってみたときの感想は表1のとおりであった。「ちょうどいい」の41℃を基準とすると、2℃低いと明らかにぬるく感じ、2〜3℃高いと明らかに熱く感じるようであった。このことから、湖山池の時間および場所を変えて測定された水温の変化は小さく感じられ、海や川の水温とは明らかに区別されて感じられるであろう。
温度/℃ | 感想(被験者:小学校低学年) |
39.6 | ぬるい。温泉プールみたい。 |
40.5 | きもちいい。 |
41.4 | ちょうどいい。温泉みたい。 |
43.2 | きもちいいけど、肩までつかるとちょっと熱い。 |
44.1 | ちょっと熱い。肩まではちょっと大変。 |
45.0 | 熱かった。肩までつかれない。 |
45.6 | とっても熱かった。 |
以上から、湖山池の水温は安定で均一であり、海や川の水温とは明らかに区別できると考えられる。